「二十四節季こよみ」の作者平林ジュンさんに聞く
16
2008
(聞き手:ハタヒカル/語り手:平林ジュン)
◆なんで「二十四節季」というテーマを選んだの?
平林:実は子供の頃、家は江戸時代から続く菓子町の中にあって、やっぱりウチも菓子屋だったんです。そん中で育っていると、町で季節の移ろいをいろいろ感じ取ることができた時代なんですよ。
ハタ:自然の中ではなくて、町の中で季節の移ろいを感じられるんですか。菓子町だから、節季毎にその時々のお菓子が作られていたりしたんでしょうか?
平林:菓子町だから、ということはどうだかわかんないけど、お盆の時のお菓子、大晦日の時のお菓子、春分や秋分の時の菓子というのは確かにあったように感じるね。むしろ人の会話とか、神社にお供えしてあるものとか、そういうものから感じ取れたかな。あの頃、悪ガキだったから、神社の屋根に登ったりして神主さんに怒られたり。(笑)
ハタ:その頃はまだバチが当たるぞ。とか言われていたんでしょうね。
平林:バチが当たったから、いまこうしている。(笑)
ハタ:たいしたバチですよ。森の中で暮らしてるなんて。(爆)
平林:でも、今の子供達にバチが当たるって言っても、何のことだかわからないんじゃないかな。まして、神主さんに怒られるとかそういう経験は無いでしょうから。
ハタ:私は怒られた経験豊富ですけどね。(笑)
平林:ハタさんは別格。悪ガキだったって見ればわかる。でも、最近はそうやって他人の子供を怒るとか、外で遊んでいる子供に注意がてらちょっと声をかけると言った風景は見なくなったのが寂しいね。
こうやって今の歳まで、あの頃言われたこと覚えているし、今の歳になって言われたことの意味がわかったりして。
ハタ:奥が深いですよね。バチが当たるって、すぐに何か自分に降りかかってくるのかと思っていたら、そうじゃなくてかなり長い年月が経ってから自分の身に降りかかってくる。
つまり、「躾」だったんですよね。当時は注意されたら「くそじじぃー」とか言ってましたけど、言われた方も昔、自分が言っていたからそんなに気にしていなくて、むしろ楽しんでいたような風潮があったかな。
平林:そういうやりとりがあって、大人になっていったんだけど、ハタさんの年齢でそういう人と会うのは珍しい。歳ごまかしてるんじゃないの?
ハタ:良く言われます。(笑)
平林:子供の頃のそうしたやりとりや、ばあちゃんから言われたことを今考えてみると、日本には子供に生活を教えていくための方法として、八百万の神々という考え方があったと思うんですよ。こういう話をしていくと、どうしても宗教観に走っちゃう人がいるんですけど、あまりそっちに行きすぎるのはどうかって思うので。
こういうのって、考え方だし、大人になってから子供の時言われたことがやっとわかるようになるわけだから、ずいぶん長いスパンで考えられた「日本の文化」だと思う。
ハタ:そうですね。日本にはまだ原始の生活の考え方が残っているような気がしますし、その一端が「妖怪」みたいなものになっていたり、「陰陽師」として残っていたりするような気がします。
最近本を読んでみたりしたら、日本って「呪術」の文化があるんですね。
平林:バチってのもそういうところから来てるんだと思うけど、「呪い」については専門外なのでわからない。(笑)
でも、モノを大切にしないとバチが当たるとか言われるのも、考え方によっては「呪い」かもしれないね。
ハタ:それを祓うしくみもちゃんと出来てましたね。言われたことを改めたり、気をつけて生活するようになったら、バチは当たらないから。(笑)
節季毎に家庭で行う行事でも、今までやってきた事に対するバチがチャラになっちゃうようなイメージもありますしね。
平林:節分なんて良い例かもしれない。
そうやって考えていくと、季節の変わり目毎に節目があって、そういう節目の時に今までやってきた悪事が流されちゃったりする。八百万の神様達も小さな事はそこで許してくれるみたいなイメージがある。
節季ってそういう意味でも意識することが大切なんじゃないかって思ったのが「こよみ」を考えたきっかけかな。
ハタ:言うなれば、八百万のカラクリの復活って感じでしょうか。
平林:カラクリか。いいね。その表現。でもまさにそんな気がする。
こよみたちはまだまだ生まれたばかりだから、仲間が少ないけど、まずは仲間捜しから始めないといけないんだよね。
カラクリの復活のためには、かつて言われていた八百万の神を捜すところからスタートかな。気の長い話だけど。
ハタ:八百万の神を捜すと同時に、こよみは季節の神様という設定ですよね? あ、見習いっていう設定でしたか。
平林:そう。見習いだからなにをやってもドジをしたり。神様だからって凄い力を持っているワケじゃない。ある意味、妖怪的。妖精っていってあげたほうがカワイイかもしれないね。日本じゃ妖精はなんか西洋のイメージがあるからちょっと違うけど。
ハタ:完璧じゃないところが人間に近いイメージなんですね。
平林:だから日本的なんじゃないかな。人間に近いから、自分と置き換えやすいし、こよみを通して季節の移ろいを感じて欲しいから。
ハタ:そこが一番大切な事ですね。地球温暖化問題が言われていますけど、自分と関係がないように思えちゃう。
平林:そう。やっぱり外に出なくなっちゃったのが問題だと思う。塾通いだったり、家の中で遊ぶことが多かったり。移動するときも車を使ったりして。四季の移ろいを肌で感じなくなった。肌で感じないって言うのは温度や湿度の微妙な変化だったり、店先で売られているものが変わっていく様子だったりするんだろうけど、最近はそれを感じるだけの余裕もなくなったと思う。
そこをこよみを通して感じてくれることを狙ってる。
ハタ:平林さんは昔、アニメの世界で活躍していたから、アニメの持つ伝達力を良く知っているんですね。だから、こよみもアニメになることを考えてデザインされている。
平林:信州発の日本らしい作品を出していきたいし、環境問題にアニメが出来ることをやっていきたい。自分が今まで関わってきた分野で環境問題に関して力を発揮できるのだったら、積極的に関わっていきたい。
とにかく、自分は絵を描くことしかできないから。
ハタ:様々なアニメの作品に携わってきただけに、それこそ肌で感じていますね。ちなみに、Zガンダムにレンズマン、マクロスも関わっていたんですね。演出として参加ですか。小公女セーラも絵コンテを描いていたんですね。他にも様々なものを手がけられている。手塚さんのアニメでもお手伝いされていたんですね。
平林:ここだけの話、実は漫画アニメが好きだったわけじゃない。(笑)
本当は単なる絵描きで生計を立てていきたかったんだけど、たまたま絵を描く仕事があって、働き始めたところがアニメ制作進行管理会社だった。入ったばかりの当時はアニメの作り方すら知らなかったから、制作進行って言葉が理解できなかった。(笑)
まさか、制作上の上工程だったとはつゆ知らず。(笑)
ハタ:それがいつの間にか制作監督をするようにまでなったというのは凄いですね。苦労されてますね。
平林:仕事をしていくうちに、アニメってこんなにたくさんの人たちが関わって、作り上げるのに数週間もかかるということがわかって、辞められなくなった。
それに、見てくれている子供達に夢を与えているって事を実感できたかな。最近はなにかリサーチして人気のある作品ばかり作られてきているけど、関わっていた時代は結構冒険心があったし、作り手にも夢があった。
こよみにはその時の冒険心を与えてやりたいし、何よりアニメという文化と昔からある日本の文化をちゃんと結びつけたい。
それは、八百万の神様見習いという仮想のキャラクターを通して、季節を感じること、地球で何が起こっているかを肌で感じて欲しいこと、アニメというのは娯楽であっても、何かを伝えるための手段としてはとても力があるので、損得商売抜きでちゃんと作り上げていくことが、まず子供達に肌で感じてもらえるきっかけを作れるし、アニメ世代の人たちにもメッセージを送ることが出来る。
それをここ信州からやりたいし、信州だからやれることだと思ってる。
ハタ:となりのトトロのような世界観と似ていますね。でも、もうちょと身近なもので、まさに日本の神々の世界って感じがします。
懐かしさではなくて、古来日本の「躾」というカラクリの復活が、こよみに与えられた仕事というわけですね。
平林:そう、宮崎さんが表現した世界観は凄いし、夢もある。あこがれるんだけど、あの世界観は宮崎さんでないと作れない。
自分には自分の役割があるはずだし、なにより松本の八百万の世界で育ってきた土台を活かすのは、信州という舞台しかないから。
ハタ:お忙しい平林さんに長い時間お話を聞けて良かったです。こよみの更なる活躍を楽しみにしています。
信州から世界へこよみが旅立つと良いですね。ありがとございました。

こよみのラフ画。これ以外にも猛烈にたくさんのラフ画が存在。ちゃんと性格付けを行うことで、親しみやすくなるキャラクターを作ることが大切と平林さん。
平林ジュンプロフィール:アニメ制作時代、機動戦士Zガンダムなど、様々な作品で各話演出を担当。スクパーズ(モンキーパンチ原作)では監督を務める。
現在、自然の中での生活と絵描きとしての生活を実現。学研などに、デッサンなど高度に描かれた鳥や動物などの色鉛筆イラストを掲載。
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